[ブックガイド]近代哲学篇

各哲学者に関する解説のなかで取り上げた著作(翻訳)とは別に、入門者にとって有益な近世哲学に関する書籍を紹介したい。

古代、中世、近世と時代が下るにつれ、1つの哲学の内容は複雑かつ巨大になってきた。
カントやヘーゲルの哲学は、それ以前の哲学と比較すると、まさに〝巨大建築〟である。
そうした彼らの哲学を理解しようとするときは、まずは、枝葉末節を取り除き、その体系をシンプルな形で理解できるように提示してある入門書から手をつけるのがよい。
そして、そのあと、体系の深みへと分け入っていくのが理想的だ。

カントの場合は、まずは『カント——わたしはなにを望みうるのか:批判哲学』(貫成人 著)がおすすめである。
“カント入門”と名づけられた書は数多くあるなかで、その哲学をシンプルに理解するのに、本書の右に出る書はないのではなかろうか。
専門用語の使用が少なく、中高生でも充分に読み通せる文章だ。
カント入門』もおすすめだ。
著者の石川文康氏(故人)は、長年カント哲学を研究してきた学者で、よく知り尽くしたカント哲学の核心をわかりやすく精確に描き出している。
同著者による『カントはこう考えた』では、『純粋理性批判』のなかで扱われている(ヨーロッパ哲学の専売特許とでも言えるような)「理性」が、日本人にも合点がいくように丁寧に解説されている。
「理性」と言われても、簡単にわかった気にはなれないという真摯な読者には特に読んでいただきたい。
ちなみに、カントの主著『純粋理性批判』の入門書としておすすめなのは、『カント『純粋理性批判』入門』(黒崎政男 著)である。
私が見るところ、『純粋理性批判』をこれ以上わかりやすく噛み砕いた入門書はない。

次にヘーゲルだが、実は私にとって、カントにくらべると、“この1冊!”と自信をもっておすすめできる入門書がない。
しかし、体系をシンプルに提示しているという意味での入門書は見当たらないものの、ヘーゲル哲学を新たに読み直す試みを哲学初心者にもわかりやすく提示している“入門書的な”書ならある。
それが、『ヘーゲル・大人のなりかた』(西研 著)だ。
本書では、個人の悩みや生き方を共同体のあり方とともに考える視点が考察され、そのなかで『精神現象学』と『法の哲学』が参照されているが、結果的に、この2冊の内容をコンパクトに理解できる入門書に近い役割が果たされている。
もっとも両書の解説そのものが目的ではないので、必ずしも内容が体系的に記述されているわけではないが、それでも両書の核心が理解しやすく提示されている。
一方、ヘーゲルの主著『精神現象学』の入門書であれば、数多くある。
なかでも、おすすめなのが『ヘーゲル『精神現象学』入門』である。
著者の長谷川宏氏は、それまで難解で知られた『精神現象学』を平易な言葉で翻訳し(といっても、やはりむずかしいが……)、ヘーゲル哲学を身近にした功績者である。
本書を読めば、『精神現象学』の内容をコンパクトに把握することができる。

ところで、カントとヘーゲルのあいだにはフィヒテとシェリングがはさまれているが、2人の巨人にくらべて存在感が薄いせいか、彼ら2人の哲学の入門書も品薄である。
しかし、そのような状況のなかでも、キラリと光る良書がある。
1つは、『ドイツ観念論』(村岡晋一 著)である。
カントからヘーゲルへといたるドイツ観念論の流れのなかにフィヒテとシェリングの各哲学が位置づけられているため、決して2人の哲学の全体像そのものを描いているわけではないが、その核心を知るには大変有益だ。
もう1つは、執筆年代は古いが、『カントからヘーゲルへ』(岩崎武雄 著)である。
前書同様、ドイツ観念論の流れのなかでフィヒテとシェリングが紹介されている。
“これぞ正統派”と言える鉄板の解説書で、入門者でも充分に読み通せる。
なお、岩崎武雄氏は、『カント』という3批判書に関する非常にすぐれた解説書を著している。
カントの3批判書読破にチャレンジしたいという方であれば、チャレンジ前に必読である。

最後に、ショーペンハウアーであるが、フィヒテ、シェリング以上に入門書がない。
皆無に近い。
しかし、“ショーペンハウアー哲学を体系的に概観できる”という意味での入門書ではないが、“誰でも親しむことができる”という意味での入門書(的な読み物)ならある。
超訳 ショーペンハウアーの言葉』(白取春彦 著)と『ショーペンハウアー 自分を救う幸福論』(鈴木憲也 訳)である。
どちらの書も、ショーペンハウアー自身の文章を翻訳してあるので、彼の息吹にじかに触れることができて有益だ。
また、『自分を救う幸福論』の巻末には、「まとめ——ショーペンハウアーの考え方」が収録され、簡便なショーペンハウアー入門の役割を果たしている。

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