【生命倫理学】再生医療(regenerative medicine)

再生医療」とは、障害のある組織や臓器を正常な状態へ回復させる治療法のことである。
この再生医療の手段として注目されているのが、「ES細胞」と「iPS細胞」である。

ES細胞

ES細胞」(胚性幹細胞)とは、あらゆる細胞に分化できる能力=「全能性」と、無限に増殖する能力とを持つ細胞である。
あらゆる細胞へ分化できることから、「万能細胞」と呼ばれることもある。
ES細胞からは、さまざまな組織や臓器をつくることができるため、特定の組織や臓器を作製し、移植に役立てることが期待されている。
ES細胞をつくるには、胚(細胞分裂を始めた卵細胞)が必要である。
胚は、クローン技術を用いてコピーすれば、数多くつくることができる。
しかし、ES細胞は、その胚を破壊しなければつくることができない。
ここには、〝ヒトとなる命を宿した卵細胞を治療のためとはいえ犠牲にしてよいのか?〟という問題がつきまとう。
〝殺人に等しい〟との批判もある。
また、ES細胞を移植した際に拒絶反応が起きるという医療上の問題もある。
このように、ES細胞を再生医療へ応用するには、大きなハードルがある。

iPS細胞

しかし、医療技術の発達により、胚ではなく体細胞から、ES細胞のような、いろいろな組織や臓器になれる細胞をつくることができるようになった。
その細胞が「iPS細胞」(induced pluripotent stem cell、人工多能性幹細胞)である。
これは、患者から得た皮膚などの体細胞に特定の遺伝子を導入・培養することによって得ることができる。
つまり、患者の体細胞を、まるで細胞の時間を巻き戻すかのように、多能性を持つ状態に〝初期化〟するのである。
2006年8月に京都大学の山中伸弥教授が世界で初めて作製に成功し、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞した。
iPS細胞は、胚を破壊する必要がないうえに、患者本人の体細胞を利用するので、拒絶反応の恐れが低い。
技術的にはむずかしいが、ES細胞にまつわる倫理的・医療的問題はクリアしている。
しかし、まったく問題がないわけではない。
たとえば、自分の体細胞からスペアの組織や臓器をつくり、老いてくたびれた組織や臓器と入れ替えることができるようになるかもしれない。
一種の〝若返り〟〝アンチエイジング〟だ。
前のページで紹介した「エンハンスメント」として利用される可能性もあろう。
あるいは、体細胞さえあれば多能性幹細胞がつくれるのであるから、男性であれば卵子、女性であれば精子を手に入れることができる。
すると、男性ひとり、あるいは女性ひとりで受精卵をつくることも可能だ。
そうなれば、相手がいなくても、自分の子どもを持つことが可能になるかもしれない。
こうした可能性は、まるで現実感がない架空の未来社会の話のように聞こえるかもしれない。
しかし、技術的には本当に実現するかもしれないのである。
そのときに、私たち人間(人類)は、そうした技術と、そこからもたらされるすべての結果を、責任をもって受け容れることができるのであろうか?
考えておいてよい問題だと思う。

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