情報倫理学、経営倫理学、その他

応用倫理学の分野には、生命倫理学と環境倫理学の他にも、〝◯◯倫理学〟と名づけられた新しい倫理学がいくつかある。
どの倫理学も生命倫理学や環境倫理学ほどの研究の蓄積がなく、充分に体系化されているとは言い切れない〝若い学問〟だが、その重要性は日増しに高まっている。
以下に、代表的なものを紹介しよう。

情報倫理学

コンピュータやデジタル技術、インターネットの発達に伴って生じた倫理的な問題を扱うのが「情報倫理学」(information ethics)である。
情報倫理学において重要なテーマとなっているのが、まず、知的財産権知的所有権)の侵害である。
コンピュータのソフトウェアや、映像、音声、文字データなどのデジタルコンテンツには、必ず著作権がある。
しかし、これらは簡単にコピーできてしまうため、インターネット上には違法なコピーがあふれかえっている。
そのため、著作権者の精神的な労働の成果である著作物の価値は守られず、大きな損害を被っている著作権者が少なくない。
技術的に〝できる〟ことがそのまま〝やっていい〟という規範にはならない典型例である。

プライバシーの侵害も大きなテーマだ。
情報倫理学におけるプライバシーとは、〝自分に関する情報を勝手に公開・利用・譲渡されない権利〟のことである。
〝自分の写真がインターネット上に無断で公開される〟〝不正アクセスによって個人情報を盗まれる〟といったことが、プライバシーの侵害の例として挙げられる。
プライバシー(個人情報)は保護されなくてはならないが、知る権利や報道の自由と干渉する場合は、調整が必要となる。

この他、インターネットの匿名性を悪用した犯罪や誹謗中傷、デジタル・デバイド情報格差)などが、情報倫理学では扱われる。

経営倫理学

経営倫理学」(business ethics)は、ビジネスにおける公正さの基準を定めるために事例を検討し、問題解決のための方法論の構築を目指す。
ここで言う「ビジネス」とは、企業の営利活動に限られない。
非営利団体の活動までも視野に含む。

経営倫理学が成立した背景となったのは、企業の不適切な経営や会計、違法行為、倫理観の欠如といった問題や事件であった。
そのため、「コーポレート・ガバナンス」(企業統治)のあり方や「コンプライアンス」(法令遵守)体制の構築、「公益通報」(内部告発)の適切な運用などが、経営倫理学における重要なテーマとなっている。

その他の応用倫理学

この他の応用倫理学には、研究者や科学技術者の社会的責任を論じる「研究倫理」や「技術者倫理」、ドーピングへの対応など競技の公正さについて考察する「スポーツ倫理学」などがある。

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