【徳倫理学】現代における展開(2):マッキンタイア(MacIntyre)

アラスデア・マッキンタイア(Alasdair MacIntyre、1929/1/12-)は、アメリカ合衆国の哲学者である。
彼は、その著書『美徳なき時代』において、近現代の倫理学を批判し、主にアリストテレスの倫理思想を再評価した。

マッキンタイアによれば、現代は、道徳の絶対的な根拠を失い、道徳が崩壊した「美徳なき時代」である。
その結果、あらゆる道徳判断は、態度や感情の表現だとみなされるようになった。
マッキンタイアは、こうした立場を「情緒主義」と呼ぶ。
それでは、なぜ「情緒主義」が蔓延するようになったのか?
それは、「啓蒙主義」が失敗したからだという。

マッキンタイアが言う「啓蒙主義」とは、道徳を合理的に説明しようとする立場のことである。
しかし、カントが「理性」、キルケゴールが個人の「選択」、ヒュームが「情念」だと唱えた道徳の根拠は並立するものではなかった。
そのため、そうした学説を根本から合理的に説明しようとする「啓蒙主義」の試みは失敗に終わる。
さらには、「有神論」が崩壊し、神の存在そのものを疑う思潮が広がった。
そのため、「情緒主義」が蔓延したのだという。

こうした状況を打開するためにマッキンタイアが注目したのは、「共同体」であった。
「情緒主義」は〝快〟をもたらしたり〝有用〟であったりする行為を道徳的な行為だと考えたが、実は〝快〟や〝有用〟だと感じるその感じ方は「共同体」のなかで身につけたものだ。
つまり、個人は、「情緒主義」が考えたような独立した個ではなく、「共同体」のなかに埋め込まれた存在なのである。

ここでマッキンタイアは、ポリス(古代ギリシアの都市国家)における人間の〝善き生〟を考察したアリストテレスの倫理思想を復活させようとする。
つまり、共同体の目的(「テロス」)に沿う〝共同体全体にとっての善〟=「共通善」をもたらす徳を身につけなければならないと唱えたのである。
そして、そのためにマッキンタイアが注目したのが、「実践」「物語的秩序」「伝統」であった。
なかでも最重要だとされたのが「実践」だ。
たとえば、チェスというゲームでうまくプレーする(「実践」する)には集中力と想像力(という徳)が必要だが、集中力と想像力は、その集中力と想像力を必要とするチェスをプレーしないと身につかない。
つまり、徳と「実践」は不可分なのであり、だから「実践」は最重要なのであった。
一方、共同体の目的と歴史という「物語的秩序」があるからこそ、人は役割を自覚し、社会的責任を果たすことができる。
また、共同体の成員は、共同体の存続のために、前の世代から受け継いだものを次の世代へ受け渡す役割を担うが、そのためには「伝統」を重んじなければならない。

歴史的に形成されてきた共同体の伝統のなかで生きるための徳に注目したマッキンタイアの考え方は「共同体主義」(コミュニタリアニズム)と呼ばれ、のちの倫理学に大きな影響を与えた。

※関連ページ:「アリストテレス:倫理学と幸福

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