情動主義(emotivism)

続いて「非認知主義」である。
「非認知主義」とは、事実に関する判断と価値に関する判断は別個だと考える立場である。
この「非認知主義」は、さらに「情動主義」と「指令主義」に分けられる。
このページでは、まず「情動主義」について紹介する。

「情動主義」とは、道徳的な判断はその判断をする者の感情や態度を表していると考える立場である。
情緒主義」とも言う。この立場を最初に唱えたのは、イギリスの哲学者アルフレッド・ジュールズ・エア(Alfred Jules Ayer、1910/10/29-1989/6/27)である(「エア」という姓は「エイヤー」とも呼ばれる)。

エアによれば、私たちは日常、〝〜は善い〟とか〝〜すべきである〟と考え、そのように行為しようとする。
このとき、私たちは、その行為を肯定的に感じ、その行為を選ぶ動機に納得を感じ、妨げがなければ、その行為を行なう。
つまり、道徳的な判断というのは、ある感情が原因となり、その感情に突き動かされた結果、行なわれるものである。
だから、道徳的な判断は、(道徳的な)事実を言い表したものではないし、本当かどうかについて確かめることができないのである。

こうしたエアの考えをさらに展開したのが、アメリカの哲学者チャールズ・レスリー・スティーヴンソン(Charles Leslie Stevenson、1908-1979)である。

スティーヴンソンによれば、道徳的な判断には、事実を述べる働きと、感情や態度を表す働きの両方がある。
そして、後者の働きには、相手(の感情)に影響を与える作用(「情動的意味」)が含まれるのだという。
たとえば、Aさんが、〝安楽死はしても善い〟という判断をしたとしよう。
このとき、Aさんは、〝私は安楽死を善しと認める〟と、自分の感情や態度に関する事実を述べると同時に、〝あなたも善しと認めよ〟と、聴き手に態度の変更を迫っているのである。

このような「情動主義」に対しては、〝道徳的な判断がたんなる好き嫌いや喜怒哀楽の表明にしかすぎなくなる〟といった批判(「ブー/フレー説」)や、「態度の不一致」がある場合、相手を黙らせたり従わせたりするしか方法がなくなるといった問題点の指摘が見受けられる。

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