【生命倫理学】生殖補助医療(assisted reproductive technology)

生殖補助医療」(生殖補助技術)とは、望んでも自然な妊娠をしない場合に用いられる不妊治療法である。
主だった治療法と、それにまつわる倫理的な問題を概観しよう。

人工授精

人工授精」とは、子宮腔内に精子を注入する治療法である。
夫の精子を使う「AIH」(Artificial Insemination of Husband:配偶者間人工授精)と、ドナー(提供者)の精子を使う「AID」(Artificial Insemination of Donor:非配偶者間人工授精)がある。
「AID」は、夫が無精子症だったり、遺伝病を持っていたりする場合に行なわれるが、精子を提供するドナーを学歴や容姿でランクづけし、依頼者がそのランクに応じて精子を選ぶことを可能にする請負会社がアメリカには存在する。
〝劣等ないのち〟よりも〝優秀ないのち〟を選ぶ「優生思想」(ナチスの人種政策が有名)の温床となる恐れは否定できないだろう。
また、生まれた子どもが大人になり、自分の〝本当の親〟を求めた場合、「子の知る権利」と「ドナーの匿名性」が対立する可能性がある。

体外受精

体外受精」とは、卵子と精子を体外で受精させ、子宮へ戻す不妊治療法である。
夫の精子が活発でなかったり、少なかったりする場合は、医療者が顕微鏡で見ながら卵子のなかに精子を直接注入する「顕微授精」が行なわれる。
夫の精子で受精卵ができない場合は、ドナーの精子を用いる選択肢が出てくる。
その場合、「AID」(非配偶者間人工授精)と同じような問題が起きる可能性がある。
さらに、体外受精に伴う問題としては、成功率を高めるために複数の受精卵を移植したものの、それがかえって多胎を招き、胎児の数を減らす「減数手術」(減胎手術)を行なわなければならないということがある。
また、体外受精の成功によって使われなくなった受精卵=「余剰胚」をどう取り扱うかということも、倫理的な問題である。

代理出産・代理母

まず、「代理出産」とは、子どもを望む女性が、子宮や内臓になんらかの疾患や問題があって妊娠できない場合、夫と自分の受精卵を第三者の女性の子宮に移植し、出産してもらう方法である。
代理懐胎」とも呼ぶ。
また、代理出産する女性のことを「ホストマザー」と呼ぶ。
一方、「代理母」とは、卵巣や子宮の摘出などによって卵子をつくることができず、妊娠もできない女性が、夫の精子を第三者の女性に人工授精し、出産してもらう方法である。
代理母となる女性ことを「サロゲートマザー」と呼ぶ。
この代理母では、卵子を提供する女性とホストマザーが別々の女性となることもある。
ところで、代理出産と代理母では、ホストマザーやサロゲートマザーは自分の腹を痛めて出産することから、子どもに愛着が湧いてしまうということがある。
実際に、1986年の米国で、代理母を引き受けた女性が、依頼主夫婦に対し、〝子どもを引き取りたい〟と申し出て、裁判となった事件があった。
ベビーM事件」である。
判決の結果、その女性には親権は認められなかったものの、面会権は認められた。
もしも卵子提供者の女性とホストマザーが別々の女性で、その2人が親権を主張していたとしたら、問題はさらに深刻になっていただろう。
逆に、生まれた子が未熟児や障害児の場合、依頼主が引き取りを拒むことも考えられる。
また、代理母の場合、やはり「AID」と同じ問題が起きる可能性がある。
このように、代理出産・代理母は、倫理的なリスクを多く伴う方法だと言える。

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