QLOMAGA[クロマガ]|哲学系情報マガジン

[ブックガイド]倫理学の入門書」で紹介した『功利主義入門』に目を通していたら、「はじめに」のなかに次のような記述があった。
「空手や剣道には何々流というのがある。将棋には定跡(じょうせき)、囲碁にも定石(じょうせき)がある。それと同様に、倫理学にもいくつかの理論がある。たとえば、功利主義、義務論、徳倫理などである。これらのうち、どれが一番優れているとはすぐには言えない。しかし、だからといって我流の方が良いわけでもない。一人前に批判的思考ができるようになるためには、一通りの型、思考法を身につける必要がある。自分のオリジナリティは、一通り型を学んだ後にできてくるものだ。」
これは、武道や芸能でよく言われる「守・破・離」と同じ考え方だ。
つまり、まずは先生に言われたこと(型)を〝守〟り、次にその型を自分なりにアレンジして既存の型を〝破〟り、最後に型から〝離〟れて自在になるのである。
著者の児玉聡氏は、倫理学において型を身につけるなら、功利主義がわりと理解しやすくてオススメだと言っている。
功利主義入門』は、まさにそのために書かれた入門書だ。

あるいは、倫理学の学び方としては、ぼくが「哲学の〝わからなさ〟はどこから来るのか?」で書いたように、〝自分にピンとくる哲学者(倫理学者)に食らいつく〟という方法も有効だと思う。

児玉氏が言う入門法が〝型を身につけるタイプ〟なら、
私が言う入門法は〝弟子入りタイプ〟である。


功利主義でいえば、ベンサムミル(あるいは両者)がいいだろう。
でも、倫理学で〝弟子入り〟するなら、カントが最適だと、ぼくは思う(児玉氏は薦めていないが……)。
カントの倫理学(義務論)は、言っていることが現代人でも共感できるところがあるし(この点は功利主義も同じ)、批判が多いので多角的な検討ができるし、解説書も多いし、応用倫理学、とりわけ生命倫理学と環境倫理学において功利主義と並んで(というか対立する形で)重要な理論となっているからである。
ところが、カント倫理学を専門に扱った入門書というのが、ない。
というか、あっても、一般の初心者に向けてオススメできるような代物ではない。
研究者や大学院生が参照するようなお堅い本である。
となると、〝カント倫理学に入門するには、カント哲学全体のなかで、その倫理学も併せて扱っている優良な入門書を読むべきだ〟となる。
そこでオススメできるのが、『カント入門』だ。
西洋哲学史のキホン」のなかの「[ブックガイド]近代哲学篇」でもご紹介したが、カント哲学を勉強するための必読書だ。
この本のなかの「第5章 自然因果の彼岸——自由と道徳法則」が、カント倫理学について解説している。
なお、この本はタイトルに「入門」という文字が入っていても、やはりそこそこむずかしいので、通読する自信がないという方は、前もって『自分で考える勇気——カント哲学入門』を読んでおくことをオススメする。
中高生向けに書かれたこの本でカント哲学と倫理学のエッセンスを理解しておけば、『カント入門』をあまりむずかしいとは感じずに通読できるはずだ。