QLOMAGA[クロマガ]|哲学系情報マガジン

かつて、ぼくが大学通信教育のスクーリング(面接授業)で教えていたとき、たまに学生から、「先生おすすめの哲学入門書はありますか?」と尋ねられることがあった。
そうした質問のほとんどは、〝受講している「哲学」という科目の内容(教科書の内容)を理解するのにふさわしい入門書は何ですか?〟という意味だった。
その場合は、西洋哲学がどのように展開してきたのかが初心者にも吞み込みやすい以下の入門書を紹介した。

図解雑学 哲学』(貫成人 著)
はじめての哲学史』(竹田青嗣、西研 編)
西洋哲学史』(今道友信 著)


『図解雑学 哲学』は、まるで予備知識がなくても読め、各哲学の要点がひと目で簡潔にわかるのが特徴である。
『はじめての哲学史』は、各哲学者の考え方の型がシンプルに示されていて、それぞれの哲学者が何をどう考えたのかを把握しやすいのが特徴である。
『西洋哲学史』は、上記2冊より、やや専門的だが、西洋哲学史が何を問題にしてきたのかを知るのに適している。(※1)
この3冊を順に読んでいけば、哲学という科目を履修するための基礎知識は充分に身につくと、ぼくは思っていたし、その思いは今でも変わらない。

さて、あるとき、やはり「先生おすすめの哲学入門書はありますか?」と尋ねてきた20代前半くらいの若い男子学生がいた。
少し話をしているうちに、彼は〝哲学的に考える〟ことに興味があるらしいことがわかった。
つまり、〝プラトンは「イデア」の実在を説いた〟とか〝デカルトは「方法的懐疑」によって「思惟するわれ」を見出した〟とか、そういった〝哲学的知識〟に関心があるのではなく、〝哲学的に考えるとはどういうことか?〟に関心があったのである。
この場合の〝答え〟は簡単である。
実際に〝哲学の現場〟に触れることである。
つまり、哲学者が哲学する、まさにそのプロセスを追体験すればいいということだ。
もっと簡単に言えば、哲学者の著作を実際に読むことである。
それでは何を読めばいいか?
哲学の〝わからなさ〟はどこから来るのか?」で述べたように、ぼく個人としては、〝自分にピンとくる哲学に食らいつくのがいちばんだ〟と思っているので、その男子学生には「自分にピンとくる哲学書を探し出して読めばいい」と答えようと一瞬、思った。
でも、それでは〝先生〟としてあまりに突き放しすぎで冷たく、無責任な気がした。
そこで、無難なところで、次の2冊を薦めておいた。

プラトンの『メノン
デカルトの『方法序説


この2冊を薦めた理由は、いくつかある。
まず、プラトンとデカルトの著作が、西洋哲学の古典のなかでは奇跡的に珍しく(?)、哲学の予備知識があまりなくても、なんとか読めてしまうからである。
また、この2冊は、〝哲学をどこから始めればいいか?〟ということのよい見本になっているからである。
さらに、『メノン』について言えば、徳や善、幸福など、その後の西洋哲学や倫理学の主題となったテーマの〝扱い始め〟となっているからである。
『方法序説』について言えば、あの有名で衝撃的な「方法的懐疑」を追体験できるからである。

かの男子学生が実際に『メノン』と『方法序説』の2冊を読んだかどうかはわからない。
結局は読まなかったかもしれないし、読んで哲学を志すようになったかもしれないし、逆に挫折したかもしれない。
いや、読んでもなんとも思わなかったかもしれないし、まるで別の古典を読んだのかもしれない。
しかし、いずれにせよ、もしも今、あのときの男子学生と同じ質問をされたとしたら、ぼくはそれでもおそらく、この2冊を薦めると思う。

(※1)その他の書籍の案内は「[ブックガイド]哲学史入門編」を参照のこと